Kitsune Gadget

気になったことをつらつらと

HDMI→LANケーブルへの変換がどうなっているのかの疑問

現在の接続規格として主流になっているHDMI。最近のものは伝送速度が約40Gbpsと周波数が高く、内部の導線数も多いためか長距離には弱いらしく、通常はせいぜい5m~10mくらいが限界らしい。そして10m以上の長距離に対応したHDMIケーブルは値段もさらに高価なものとなる。そんなHDMIをなるべく低コストで長距離接続するために、LANケーブルを利用した伝送ができるとか。

 

こういう商品があった。

電源いらずのコネクタ変換のような物だけで本当に送れるのかという疑問が生まれた。

 

こちらはカードサイズのエクステンダー。電源が必要でいかにもといえる大きさもある。変換するにはこのくらいの大きさでいろいろしなきゃいけないのではないかと思う。

HDMI to Ethernet ?

どのようにしてHDMIからLANケーブルに変換するのだろうか。

まず最も気になること

  • HDMIケーブルのピン数は19本
  • LANケーブルのピン数は8本

映像のデジタルデータは少なくともRGBそれぞれの±が必要で、それだけでも6本のピンを専有する。これ以外にも映像の解像度情報を送ったり同期クロックデータが必要なはずなので、ケーブル1本では直接の変換は出来なさそうである。

となるとやはりTCP/IP通信を内部的に行っていることになるのだろうか。

 

LANケーブルを2本利用して伝送する

IP通信を考える前に、LANケーブル2本使って繋ぐものがあるようだ。

 

この製品にはLAN側にTMDSとDDCという表記がみられる。
調べたところ、TMDS (Transition Minimized Differential Signaling) は高速シリアルデータの伝送方式であった。HDMIでは映像と音声信号の伝送に使われている。

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TMDS(Transition Minimized Differential Signaling) – HDMI-NAVI.com

TMDSはRGB(もしくはYPbPr)と音声・補助データを扱う3つとピクセルクロック1つ、各信号ごとに3本専有し計12本が必要。すなわち、ピンが8本しか無いLANケーブルでは4本ぶん少ない。
しかしながら、プラス・マイナス・シールドのうち、シールド機能はUTPのLANケーブルでは使われないため、おそらくシールド部分がカットされていると予想。プラスとマイナスのツイストペアで差動伝送を行なえれば良いということだろう。


DDC (Display Data Channel) では主にディスプレイ情報や制御データを伝送する。これがないと送信側とモニター間の通信が行えない。さらに、HDCPの公開鍵もこのピンで送るため、暗号化保護されているデータを扱う場合もこのピンを確実に接続する必要がある。


よって最低でも映像伝送に必要な情報は、TMDSとDDC である。

つまり、9ピンぶんあれば直接伝送が可能といえる。
(製品はDDCの表記だが、余った部分はシールド除く残りの6本も伝送している可能性はある)

 

LANケーブル1本でどうやって伝送するのか

前述から、LANケーブル1本での直接伝送はピン数がやはり足りない。

もしこれがTMDSの8本のみで伝送されてるなら、DDCをカットしている可能性も無くはない。ただし制御信号が送れないため、送信側からモニタへの制御データは送信できない。HDCPの信号も取得できなくなり、暗号化される映像の受信は不可能になる。

しかしほとんどの製品はHDCPに対応しているため、DDCの接続をカットしているわけではないようだ。

 

まず考えられるのは

HDMIのデータをシリアル化して通常のイーサネットに乗せること。

この場合、送受信側でMACアドレスを利用した接続をする必要があり、ネットワーク送受信をする機構が必要になる。すなわち送受信機そのものがNICを搭載しており、内部でHDMIの複数ピンデータを1つのデータフレームに格納し、受信側で展開し直して同じ信号が同じピンに戻るようにしていると考える。
そして、動かすために電源が必要な理由にもなる。

 

こちらの製品説明、IP接続タイプは映像を圧縮している旨がある。
つまり、非圧縮の元データを逐次圧縮して送り、受信側でもRGBに戻すを展開しなければならない。いわば動画をストリーミングするようなものである。
このような150mもの対応製品は、圧縮しているぶんデータ転送のコストが下がったことで距離を伸ばすことが出来ているのだろう。ただ、こんな変換してるのに遅延ゼロというのは怪しい気がする。(少なくともゼロではない。糖質0の表記みたいなことしてる?)

このタイプでメリットがあるとすれば、TCP/IP接続のおかげで、スイッチやハブを挟んだ接続が可能であること。理論上はどこまでもつなげられることになる。(この場合の遅延は目に見えてあるはず)

 

ところで
HDMI 1.4 からはEthernet接続に対応しており、HDMI経由でネットワーク接続が可能になっている。この機能はHEC (HDMI Ethernet Channel) と呼ばれ、100BASE-Tと同じように動作する。
しかしこの場合だと送信に1本のピンしか使えず。しかも100Mbpsの転送速度しかなく、圧縮した映像ならまだしも非圧縮の映像をリアルタイム送信するには不十分の帯域。この変換では無劣化伝送は到底できない…。

というのはHDMIケーブルでネットワークに繋ぐ場合の話で今回の話とは無縁であった。

 

HDBase-T

そもそも価格の高いエクステンダーはHDBase-Tを採用している。

HDBase-TはCAT5e以上のケーブルで非圧縮映像、音声、イーサネット、USB(制御信号)、電源を伝送するための規格。5つのデータを扱えることから5Playと呼ばれてるらしい。

最大100m(CAT5eの最大距離)まで伝送できるようで、100mタイプのほとんどはこの規格だろう。さらに、IPエンコードタイプより低遅延である。

LANケーブルは±ペア4つしか無いが、PAM変調をベースとした独自方式により、250Mhzの信号を多値情報で変調して10Gbpsの伝送を実現しているとか。

250Mhz × 4ペアで送受信2Gbpsを伝送する1000BASE-TXに対して、HDBase-Tは5倍の10Gbpsの速度があるらしい。これは同じ周波数で5倍のデータを送っていることになる(1波長あたり10bitのデータを伝送)。

 

通常のEthernet接続ではベースバンド変調が行われている。1000BASE-TXでは4D-PAM5方式を利用しており、1ペアごとに500Mbps、2ペアずつ送信・受信に割り当て、それぞれで1000Mbpsを実現している。ピン1本あたり250Mhzで動作。

ところでHDMIは、v2.0でピクセルクロックが600MHzあるため、基本1クロックあたり1画素、1画素は3チャネルでそれぞれ10bit送るので、600M × 10 必要で少なくとも1チャネル6Gbps、計18Gbps必要になる計算だ。

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TMDS(Transition Minimized Differential Signaling) – HDMI-NAVI.com

だた、エクステンダーの利用しているHDMI規格はv1.3~1.4程度なので、ピクセルクロック340Mhzから、1チャネル約3.4Gbps必要で、3チャネル分を考えると計10.2Gbpsとなる。

このことからHDBase-Tは1080pを扱うには十分な伝送をしているようだ。そしてv1.4の速度までしか対応できないこともわかる。(4K30fpsまで)

 

そもそも変調すればLANケーブル1本でも送れた

変調は送信信号をある周波数波(搬送波)に変換して送ることである。搬送する周波数が違うものであれば多重化しても元に戻せるため、1本の線で同時に複数の信号を送れるのだ*1。多重化された波形から変調に利用した周波数を知っていれば、元の波形を抽出することが出来る。

無線の話になるが、電波も街中に無数に飛び交っている。衝突しないように規格でそれぞれ使われている周波数が決められているため、その周波数で復調することで欲しい信号だけが送受信ができるわけである。

 

変調そのものの仕組みを詳しくは説明しないが、TCP/IPを利用しないエクステンダーはおそらくこのような方法を利用していると考えることができる。そうしてTMDSの信号はそのままの周波数で4ペア8本送り、DDCなどの制御信号は別の周波数で変調させ、受信側で復調して読み取ることで信号を伝送することができるだろう。

 

電源有り無しの違いと距離について

電源無しのコネクタタイプは、変換時の電力をHDMIのバス電源から取っていると思われる。バスの電源だけでは足りない場合に電源がついている、もしくは補助としてついているのだろう。例えば、IPエンコード接続やHDBase-Tでは補助電源が必要になりそうだ。

そして、ここまで読んで気づいたかもしれないが、LANケーブルで直接HDMIの信号を扱おうとするとCAT6のケーブルでも伝送帯域をオーバーする。

しかしながら、距離を縮めれば扱えないこともなく、CAT6のケーブルでも10GBASE-Tを55mまで利用できるとある。

CAT5e と CAT6 の最大伝送距離の違い

CAT5e と CAT6 はいずれもネットワークセグメント当たり最長 100m の距離をサポートしています。これ以上長い距離で最高速度が達成されることはありません。速度が落ちたり、接続が不安定になったり、接続そのものが不可能になることがあります。100m を超える距離を伝送するには、リピータやスイッチで信号を増幅する必要があります。

10GBASE-T に使用する場合、CAT6 ケーブルの最大伝送距離は 55m に制限されます。この距離を超えると、レートは 1GBASE-T に落ちます。100m を超える距離全体を 10GBASE-T で伝送するには、CAT6A(オーグメンテッドカテゴリ 6)ケーブルを使用することをお勧めします。

CAT5e と CAT6 の違い

実際のところ10GBASE-Tで使う周波数は400Mhzであるため、最大でも1チャネル825MHz程度*2必要なTMDSの信号はさらにノイズに弱くなる。よって55mより短くなるはずである。これ以上の伝送帯域に対応させようとすると直接の変換はどんどん対応距離が短くなりそうだ。エクステンダーの殆どは1080pまでの理由はこういうことだろう。

そして、これはHDMIのエクステンダーに書かれている最大距離30mという点と合致する。さらに30mタイプ以上については補助電源を必要としている点からも、信号電圧を引き上げている事も考えられる。

また、ほとんどの製品説明はCAT7までの表記しかないが、CAT8規格のケーブルも登場しているため、ノイズ対策のシールドがより強い(はずの)そのケーブルであればもう少し長い距離を扱えるようになっているのではないだろうか。

※ CAT7と8のケーブルはSTPであり、シールドをアースする必要があるためにコネクタ外側も金属シールドが施されている。実際は機器同士で接地が必要なため、接地がないと逆にノイズが増える原因になりかねない。(接地しなくてもSTPのほうがUTPより多少の耐性はあるようだが…)基本的にUTPのケーブルを使い磁性体で覆うことで外部ノイズについては軽減ができるとか。

 

まとめ

以上は、あくまで考察範囲なので間違ってる点もあるかもしれない。
しかしながら、HDMIの映像送信は少なくともTMDSとDCCのデータさえあれば可能であることがわかった。
そして、変調伝送ができればLANケーブル1本でも送ることができるみたいなので、この疑問は解決ということで。

 

参考

TMDS(Transition Minimized Differential Signaling) – HDMI-NAVI.com

HDMIケーブルの中を流れる信号 – HDMI-NAVI.com

HDBaseT

100Base-TX、1000Base-TX、1000Base-Tにおける伝送方式の違い | エイム電子株式会社

Ethernetケーブルを家電に転用,家庭内ネットワークの新方式「HDBaseT」に注目 ―― 2013 International CES|Tech Village (テックビレッジ) / CQ出版株式会社

CAT5e と CAT6 の違い

LANケーブルの正しい使い方 | 日経クロステック(xTECH)

 

*1:周波数分割多重化。周波数が近いと干渉するので1Hz隣どうしが使えるわけではない。

*2:ピクセルクロック1波長間に10ビットの色値データが low, hi で送られるため、10ビット表現に1クロックあたりさらに5周期の波が必要と考え、165Mhzのピクセルクロックの5倍から825Mhzという値を出した。